あなたのカラダのためだもの 1
某日、0:30AM。
某埠頭。
「シャイア、あの遠くから来るの、オプティマスじゃない?」
「ほんとだ」
暗闇にきらりと光るランプを見つけて、ミーガンは隣で夜食をとっていたシャイアをつついた。
休憩用にとあてがわれた椅子から立ち上がり、近づいてくるトレーラーを見遣る。それは聳え立つガスタンクの
向こうで止まり、ゆっくりとトランスフォームしてからこちらへと向かってくる。
「お疲れさま。どうしたの?」
「やあ。ちょっと様子を見に来たのだが」
「バンブルビーだったら今ボディのチェック中だよ。もう終わったと思うけど」
「そうか」
オプティマス・プライムはシャイア達のために屈んでいた身体を戻し、辺りを見回した。
「今は休憩中か?」
「…」
オプティマスの問いに、シャイアとミーガンは困ったように顔を見合わせて、笑う。
「…んー、まあ、そんなもんかな」
「いつ再開するか、ちょっと分からないけど」
「?どういうことだ」
首をかしげるオプティマスに、髪をかきあげながらミカエラが言った。
「ご存知の通り、バリケードとのシーンなんだけど」
「ああ。バンブルビーが失敗でもしたか?」
「ううん、そうじゃなくて」
「バリケードがちょっと、ね」
そう言うミーガンはなんだか楽しそうで、シャイアも思い出したようにくっくっと笑っている。その説明だけではよく
分からず、シャイア達から少し離れて周りを見ると、撮影エリアの隅の方に見知った黒い背中が見えた。ここからは
遠くて状況が把握出来ず、指をこめかみ辺りにあてセンサーを起動させようとすると、下からミーガンが叫んだ。
「ダメよ、オプティマス」
「何故だ」
「どうしてこうなったか教えてあげる。そしたら、そんな気も起こらないわ。ね、シャイア?」
「そうだね。オプティマス、少し屈めるかい」
ミーガンの言葉にシャイアは頷いて、近づいたオプティマスの顔に台本を示した。
「今、ここ撮ってる最中なんだけどさ」
「ああ」
「バリケードのお陰で、テイク5まで行ってんの」
「…十分リハーサルがあったはずだから、それは多いな」
「まあね、で、マイケルがワンカットで撮りたいって言うから、その度に最初っからやり直しで」
「どうしたのだ、バリケードは。胃痛でも起こしているのか」
シャイアは笑った。
「いやあ、あの僕を脅すとこからかなり緊張はしてたみたいでね、やっぱそこも2回くらい噛んだんだけどさ、
それは正直僕らも予想の範囲内だったからいいんだけど」
「まさかねー」
「そう、まさかだよねー」
くすくすと笑いあう二人に、オプティマスはきょとんとする。
「どうしたというのだ」
「あたし達びっくりよ」
「まさかバリケードがあんな心配性だなんて」
「好きで好きでしょうがないんじゃない?」
事の詳細を知るうちに、オプティマスは頭がくらくらとした。
「…要は、バリケードがフレンジーを心配しすぎると」
「うん、まあ、そう」
この場面が5回も失敗している理由はこうだ。
まず序盤、フレンジーがバリケードのグリル部分から飛び出したところで思わずバリケードの視線が
フレンジーに行ってしまったため失敗。
その2。飛び出たフレンジーに気を取られてバンブルビーを殴り飛ばすタイミングを間違えて失敗。
さらにその余波が収まらないうちに組み合うところを逆にバンブルビーに突き飛ばされてしまい失敗。これが2回。
そしてそれにつられたのか、サム シャイアを捕まえるはずのフレンジーがうっかり足を掴み損ねて転倒。
計5回。
「…」
「愛されてるよね、フレンジー」
「あたしなんかさ、フレンジーを電ノコで倒さないといけないじゃない?リハの時点で、物凄い睨まれたわよ」
「さすがにマイケルもキレてさ、さっき随分怒られてた」
悪いとは思いながら、その姿を思い出してシャイアは楽しそうに笑う。
バンブルビーの手に乗せてもらい、バリケードを上から見下ろすようにしてくどくどと説教する監督であるマイケルと、
それ以上小さくはならない身体を無理に小さくして、不機嫌を隠しつつ黙っているバリケード。フレンジーは
自分が悪いわけではないのだが、なんとなく離れるわけにもいかずバリケードの肩で一緒に説教を受けていた。
「それで、マイケルはどうしろと言ったのだ」
「そんな心配なら、二人でじっくり話し合ってこい、ってさ」
「話し合う?」
シャイアの言葉にきょとんとしたオプティマスを見て、ミーガンがひらひらと手を振った。
「それはマイケルの…っていうか、人間的比喩ってやつね。ほんとに話し合う時間なんて、一瞬でしょ」
「…?」
「溜まってるもんがあるなら、スッキリさせてきなさい、ってこと」
「ちょっと興味あるよな、トランスフォーマー同士ってどうすんのか」
「やめなさいよシャイア、下世話よ」
「なんだよ、じゃあ君は興味ないの?」
「…ないことはないけど、只でさえバリケードは怖いんだから、もしそんなんバレたら」
「まあね。だからさ、オプティマス」
「覗いちゃダメよ。そういうの人間の言葉では、デバガメって言うの。二人にさせてあげてね」
ミーガンがオプティマスを見上げてウインクする。オプティマスは、やれやれとため息をついた。
「…若さというのは、時々恐ろしいな」
「…すまん」
撮影エリアの中心からかなり離れた埠頭の先。その大きな身体に似合わない小さな声で、バリケードは呟いた。
「ったく、俺まで一緒に怒られちまったじゃねーかよ」
「すまん」
「やるべきことなんだから、しょーがねーだろ?心配してもらって、有難いけどさ」
「ああ」
フレンジーは両手を腰に当てて、怒ったようにバリケードを見上げる。
「しかもさっき聞いたけど、俺がミカエラにぶった切られるとこ、アレCGにしろって言ったんだってな」
「…」
「お前がいちばん分かってんだろ?まあ痛みがないって言えば嘘になるけど俺の身体はある程度なら自由に
なるんだから、タイミングと場所さえしっかりしてりゃ問題ないって。マイケルはああいう奴だし」
「ああ、分かってるよ。だが…」
「バリケード!」
きいんと高いフレンジーの声が響いて、バリケードはびくっとした。
「…俺だってお前が心配なんだよ」
「…」
「俺よりもっとハードだ。散々取っ組み合いやって、まだ十分若くて力の有り余ってるバンブルビーにボッコにされてよ」
細い手足でとんとんと器用にバリケードの身体を登り、肩に乗る。
「…そんなお前残して、行かなきゃいけない場面なんだぞ、俺がやんのは。自分だけが辛い思いしてると思うな」
ちったあ我慢しろよ、と小さく呟いて、フレンジーはふいと顔を背けた。沈黙が流れる。
「…フレンジー」
「…うん」
「悪かった」
「心配性は相変わらずだな。俺は見かけよりヤワじゃないぜ」
「知ってる」
「…でも、心配してくれて…」
フレンジーはバリケードの顔の横に至近距離まで近づいた。視線が絡む。
「ありがと」
「フレンジー」
「大丈夫だからさ」
「ああ」
「バリケード」
「…フレンジー」
「ん」
「…ちょっと、充電させろ」
フレンジーが口を開こうとする前に、バリケードはフレンジーの身体を後ろから指で軽く押した。華奢なフレンジーは
それだけでバリケードの方へ倒れ、お互いの口元の金属同士が合わさってかちんと音を立てる。
「バ、バリケード…ッ…」
「このためにマイケルが時間くれたんだろ?」
「ち、ちょっと待っ…」
人間で言ったら胸の辺りの身体の縁を撫でられてフレンジーはびくりとした。
「馬鹿、こ、んなとこで…ッ…」
「充電させろって言ってんじゃねえか」
「無理!今は無理!俺これから走ったり捕まえたり倒されたりすんだぞ!そんなんしたら…」
「そんなヤワじゃないんだろ?」
「ダメだったら!頼むから、今は無理!!」
「…じゃあ、終わってからならいいか」
フレンジーの必死の懇願に、バリケードは撫でる指を止めて低い声で聞いた。普段より熱のこもった声。
「次できっちり終わらせるからよ、その後なら、いいか」
「…」
「フレンジー」
「…お前ボッコにされてんじゃないの?」
「お前が充電してくれるんなら治る」
その言葉にフレンジーの身体から小さく音が鳴った。人間で言ったら照れている仕草と似ているかもしれない。
「…しょーがねーな」
「忘れんなよ」
「忘れやしねえよ」
「じゃあ戻ろうぜ、さっさと終わらせたい」
「ったく、ゲンキンな奴だな、誰のせいでこうなったと…」
バリケードがゆっくりと立ち上がる。その肩に乗ったまま座りなおそうとしたフレンジーが急に口をつぐんだので、
バリケードは足を止めた。
「…どうした」
「あのさ」
フレンジーがぼそりと呟く。
「…この状況って、俺ら帰りづらくね?」
「…」
軽い動揺を示すように、バリケードの瞳が動く。
「…そうかもな」
「マイケルに冷やかされんの見え見えなんだけど」
「だがここにいるわけにもいかないし、あっちも呼びには来にくいだろう、な…」
二人が迷っていると、通信センサーに送信があった。トランスフォーマー同士でなければ聞こえないし理解も
出来ない電子音だ。
「…お邪魔じゃない?」
「…バンブルビーか?」
「そうだよ。解決したかい?」
「ああ。…すまなかったな、長々と」
「大丈夫だよー。ああ、フレンジーは動けるのかってマイケルが心配してるよー」
「…動けなくなるようなことしてねえよ」
「そう、ならよかったー」
「随分と仲のよいことだな」
「…オプティマスか」
「ああ。様子を見に来た」
「あんたも過保護だな、わざわざ来るなんざ」
「お前ほどではないよ、バリケード」
「…」
「そこからすぐ本番に入れるか?」
「あ?ああ」
「さぞ戻りづらいだろう?謝るのは後でいいから、そこから真っ直ぐ来たらどうだ。私が皆にそう伝えてやろう」
「…余計な気ばっかり回りやがる」
「何か言ったか?」
「いーや。それで頼むと言ってくれ。1分でスタンバイする」
「了解」
「…行くぞ、フレンジー」
「ああ」
1時間後、撮影終了。
バリケードは冷やかされるのを承知で全スタッフ、キャストに謝罪してまわり、にやにや笑うオプティマスを
軽く睨むと即座にトランスフォームし、マスタングの素晴らしい咆哮を辺り一面に響かせて去って行った。
はじめてのバリフレ(つーか初めてのロボ801…)(っぽいもの)。
ちょっと、この人達私的においしい設定多すぎる。
ついでに接点や共通点も多すぎる。ありがとう神様。
バリは見かけは怖いけど、きっと性根は優しい人だと思うのさ。
フレンジーちゃんは気が強いけどツンデレ気味のカワイイヤツだと思うのさ。