Piece of Love

 

余興とも言えない程の短い時間が過ぎ、スタースクリーム達の輪から外れてボーンクラッシャーが意識のない
ブラックアウトを荷物のように引っ張ってやって来た。センサーやモニターに注意を向けつつ、バリケードは格納庫
のシールドをあげる。
「…まあ、手酷くやられたもんだな」
「当然の報いだろう」
ボーンクラッシャーはあっさりと言って、それでも丁寧にブラックアウトを横たえた。
「じゃあ、後よろしくな。お前も早く合流しろよ」
そのままさっさとと戦闘へ向かおうとするボーンクラッシャーに、バリケードは声を荒げる。
「おい、ちょっと待て。このデカイのをそこへ置いてくつもりかよ」
「俺は格納庫へ置いてこい、と言われただけだしな。早くあちらへ戻らなければ」
「せめてモニタールームまでは連れてきてくれ」
ボーンクラッシャーはその言葉に一瞬立ち止まり、言った。
「…それはお前の仕事だろ?」
「は?」
普段は滅多に使うことのない格納庫の入り口に備え付けられた映像モニターのスイッチを入れ、バリケードのいる
モニタールームへと繋ぐ。戸惑っているようなバリケードの姿を面白そうに見ながら、ボーンクラッシャーは笑った。
「少しくらいならネメシス号の自動運転で問題ないだろう。お前がそっちまで連れてって、お前が治してやれ」
「何で俺が…」
「こいつもそう望んでると思うぜ。じゃあな」
「ちょっ…」
ボーンクラッシャーは軽く手を上げ、映像モニターを切って船から飛び出していった。
「…しょうがねえな」

ブラックアウトは思っていたよりもかなり重傷で、防御システムは全て破損、胸部に入り込んだプラズマがまだ
わずかにくすぶっていて、そこからはパチパチと小さな火花があがっていた。顔や頭部にも酷い打撲の痕。
現在は意識もなく、自分で動くことなど到底出来ない。バリケードは格納庫に横たわったその黒い巨体を暫く
見下ろしていたが、ため息をつき、やがてゆっくりと自分の背中に背負った。
「…馬鹿野郎が」
その重みが肩に軋む。よっぽど引きずっていってやろうかとも思ったが、先程のブラックアウトの抗議は最もだ。
ただ、やはりスタースクリームの方が上手だった。スピードも射撃も、頭脳回路も。彼にああして歯向かうには、相当の
準備期間と力と運が必要だろう。バリケードとてスタースクリームの全てがいいと思っているわけでもなく、
歯向かいたい気持ちは常にある。ただ、それは自分のやるべきことではない。
自分の、自分達のやるべきことは早くメガトロンを見つけ出すことだ。そうすればこんなくだらないことで悩まずに済む。
バリケードはその名前に負けない性格で神経質でせっかちだが、冷静な部分はちゃんと持ち合わせていた。
少なくともブラックアウトよりは。
必死で彼をモニタールームまで連れて行き、治癒システムを起動させる。致命傷になりかねないシステムの重要な
傷をそちらに任せ、バリケードは少し考えてから自らのスパークに近い部分にある接続コードをブラックアウトに繋いだ。
オートボットのように治癒担当がいないディセプティコンは、独自の研究で体内に治癒システムに酷似したものを
搭載していた。散々文句を言われながらも(スタースクリームに特に)、自然治癒よりもっと有効的に時間を使いたいと
バリケードとフレンジーが苦心の上生み出したものだ。ネメシス号のシステムもあることはあるが、仲間同士で治癒
した方が治りも早いし自然なのだ。首領であるメガトロンと、他人と繋ぐことを嫌うスタースクリームには搭載していな
い。誰とでもこのシステムを使用することは出来たが、緊急の場合を除いては、バリケードは特定の仲間にしかそれを使用しなかった。

「…寝たふりしてんじゃねえよ」
傷の癒えてきた顔の部分を指で弾くと、暗闇だった瞳に薄く赤い光が灯った。
「ブラックアウト」
「…なんだ、バレてたか」
「バレてたかじゃねえ」
「お前があんまイイから、ついな」
「…」
「だいぶ楽だ。やっぱお前じゃねえとこうは行かねえなあ。つっても最近お前以外はねえけどよ」
まだ苦しそうな呼吸の中からブラックアウトは笑い、手を伸ばしてコードに指を這わせる。
「…余計なことをすると今すぐ船の外に放り出すぞ」
睨まれてブラックアウトは慌てて手を離した。
「へいへい」
「俺だって好きでやってるわけじゃねえんだ」
「じゃあなんでやってんだ?」
「…さあな」
バリケードはふいと視線を逸らし、システムを確認し、モニターに目を向ける。
「…ちょっと、迂闊だったんじゃないのか」
「何が」
「さっきのさ」
「…ああ、まあな。そう簡単には行かねえもんだな」
「相手を考えろ。スタースクリーム相手にあんな行き当たりばったりが成功するわけなかろうが」
その言葉にブラックアウトは反論するように瞳を点滅させた。
「ちゃんと考えてはいたさ。ああいう機会をずっと狙っていたんだ。たまたまスタースクリームが都合よく怪しい動きを
するから、今がその時期と思って俺は動いたんだ」
「お前のその行動力には感心するが、あれは時期尚早だった」
「…だが、お前だって気になるだろう?」
バリケードはブラックアウトに向き直る。
「…ああ」
「慎重派の、お前の意見を聞かせてもらおうか」
言いながらブラックアウトは繋がれたコードを再び指で撫でた。バリケードの目が一瞬鋭くなるのにも構わず、
指先を何度も往復させる。バリケードは諦めてされるがままにして口を開いた。
「…まあ、メガトロン様に繋がるなんらかのものがあるということしか、俺の想像にはないが」
ふ、と息を吐く。
「スタースクリームは、メガトロン様が一生、未来永劫見つかってほしくないんだろうからな」
「…」
「それじゃなきゃ、あそこまで激昂してエイリアン船は消えただのオプティマス達が死んだだのしつこく言うものか。
メガトロン様の存在の可能性に繋がるものを奴は信じたくないし、俺達にもその希望を持たせたくないんだ」
「それはともかく、お前はメガトロン様がいつか見つかるまで、あのむかつくスタースクリームの指揮下で動けると
言うのか?お前の頭痛が酷くなるだけだぞ、メガトロン様が今近くにいないならばわざわざそれまでの新しい代理
首領など必要じゃないんじゃないか?」
「…メガトロン様とオールスパークを探索するためだけなら、スタースクリームの力はさほど必要ないかもしれん。
だが、オートボット共とやりあうには、奴の力は必要だろう。いらいらはどこかでうまく昇華させて、あの馬鹿を上手に
祀り上げるしかないだろ、今は」
ブラックアウトは乾いた声で笑った。
「めんどくせえやり方だなあ」
「ま、これもいいんじゃねえのか?メガトロン様ならともかく、スタースクリームにあるのは力だけで統率力も人望も
これっぽっちもありゃしない。持ち上げといて、俺達は俺達で奴の命令に逆らわない範囲で自由に動きゃいいじゃ
ねえか。やたらつっかかったり歯向かうからこういうことになるんだ。奴に俺達の本心なんて分かるはずもないし
分かろうともしやしねえだろうから、適当に従っておきゃいいんだよ」
「嫌な奴にそんなフリするなんて芸当、俺には到底無理だ。だが」
指の悪戯をやめ、治癒の終わった腕をゆっくりと伸ばしてブラックアウトは身体を起こした。
「お前のそういうとこは好きだぜ、バリケード」
「…」
「お前がそう言うんなら、少しばかりなら我慢してやってもいいかな」
「…ブラックアウト」
長い指がバリケードの顎をやんわりと掴む。バリケードは少しあがった息を隠すように目を伏せた。
「よせ」
「こっち向けよ、バリケード」
「俺はそろそろ行かなきゃいけねえんだ、スタースクリーム「様」がお待ちだからな。放せ」
「信号が熱いぞ、先へ進みたいんじゃねえのか?」
「何を…」
身体を軋ませてブラックアウトは強引にバリケードを組み敷いた。コードに複雑に指を絡ませて器用に内部を探りつつ、
人でいう口唇部分をきつく重ね合わせる。抵抗する暇はなかった。
「ッ、う」
ブラックアウトの指が、それ自身が意思を持つかのように器用に動く。スパークがじんじんと熱くなるのを感じながら、
バリケードは二人の間で畳まれた腕を伸ばして無理やりコードを引き抜いた。衝撃でブラックアウトの身体が跳ね、
仕方なく顔を上げる。
「…いってえなあ、もうちょっと優しくしてくれよ。俺怪我してんだぜ」
バリケードはブラックアウトを押しやると自身の治癒システムをしまい、黒い巨体を睨みつけた。
「怪我人なら余計なことしてんじゃねえ。これでも突き飛ばすのをやめて気を使ったつもりなんだ」
「…それはどーも」
ブラックアウトは言って、再びその場へ横になる。それを見て、ネメシス号のシステムに再度目を走らせてから
バリケードは立ち上がった。
「俺は出るぞ。さっさと治して戦線に復帰しやがれ」
「つれねえなあ」
ブラックアウトの言葉を無視して足を踏み出し、数歩行ったところで止まる。
「…ブラックアウト」
「んー?」
「…俺は、その場の衝動で流されて、とりあえずその場を凌いで、流し込んで、なんてのは嫌いなんだ」
「…」
その言葉に少し驚いて、ブラックアウトはバリケードの後姿を見つめた。
「状況を考えろ」
「分かった。分ーかったよ。つい魔が差したんだ」
「早く来い」
「スコルポノックが見つかるか、アーク号がぶっ飛ぶまでには行く。お前もせいぜい気をつけな」
「俺はあんなオートボットの年寄りとチビなんぞに負けやしねえよ」
そう言って、バリケードは振り向いた。
「ブラックアウト」
指で自分のスパークの辺りを守る鎧をとんとんと叩き、にやりと笑う。
「…お前のソコ、熱かった」
「バ…」
あちこちの金属が悲鳴をあげるのにも構わずブラックアウトががばりと起き上がると、もうバリケードはこちらも見ず
格納庫へ向かって行った。
「…」
ブラックアウトは盛大にため息をついて、再びシステムに身を任せる。

「去り際にそんなアツいこと、言うんじゃねえよ」

 

宇宙空間では、再び閃光があちこちで飛び交い始めた。

 


 

勢いで書いてみました…TF年齢とか分からないけど、近そうだよね。
性格とか考え方も正反対ぽいな。
でも相性はよさそうだな、と(何の)(さあ)。
バリフレも圧倒的な体格の差があるけど、こっちはこっちでかなりだろうね。
そしてこっちの方がより犯罪的な気がするね。なんとなく。

 

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